「吉田茂と61人の歴代首相」本の誕生から今まで
旧吉田茂邸の火災
平成21年 3月22日 原因不明の出火により旧吉田茂邸が焼失
神奈川県大磯町在住の絵師 河口邦山(かわぐちくにさん)。
大磯には歴代首相が8人も住んでいたこともあり、火災があった日も首相の似顔絵を描いていました。
河口邦山にとっても、大磯町にとっても、大変悲しい出来事でした。
このポスターも河口邦山作。
最初に描いたのは安倍晋三首相
初代の伊藤博文から、その当時の麻生太郎元首相までの58人の似顔絵を約4カ月にわたって描きました。
最初に描いたのは、同郷(山口県)のよしみで第57代目の安倍晋三首相。
次に描いたのは42代目の福田赳夫元首相。
3番目に描いたのは吉田茂元首相の孫の、麻生太郎元首相でした。
時代を背負った男たち 吉田茂と58人の歴代首相
平成21年5月 平塚美術館の市民アートギャラリーにて
「時代を背負った男たち 吉田茂と58人の歴代首相」展が開催されました。
大磯、平塚からたくさんの人が展示会に足を運んでくれました。年代によって思い入れのある首相の似顔絵の前では自然と足がとまり、自分が子供の頃にはこの首相だった、この時代にはこうだった、ああだったと熱いおしゃべりがとまらない様子で、あちこちで笑いがあふれる、とても賑やかな展示会になりました。
本を作りたい
せっかくここまで描いたのなら本にまとめたい。
河口邦山さんが言い出したのか、周りの人がたきつけたのかよく覚えていませんが、1冊の本にまとめようという話になりました。
人々は口々にまとめればいいとは言うものの、誰も本に関するノウハウを知りません。
出版社への売り込み
お金もなければ、出版社へのコネもありません。
何もなければ、知恵をしぼるしかありません。
さまざまな出版社の編集部に電話をかけてみましたが、どこも忙しく、持ち込みのアポイントも受け付けてもらえません。
総理大臣はすぐに代わるから本にはできないんだよ
この言葉が一番ショックでした。
もちろん企画書も送ってみました。丁寧な編集部は原稿の返却時に、「期待に添えない結果となりました」の言葉とともに「今後原稿には、返送用の封筒(切手を貼ったもの)を同封してください」と書いてありました。そんな常識すら知らない状態でした。
新晃社さんとの出会い
このままでは待っていても本はでない。
そう思った私は、同時進行で調べていた自費出版で、とても親切に対応してくれる印刷会社をみつけました。相談にのってくれるということで、JR線の田端駅から緊張しながら新晃社さんへ向かったのは平成22年3月のことでした。まだ寒かったけれども天気がとてもよかったのを覚えています。
印刷の種類によって値段も変わり、用紙の質にこだわると色もきれいにでる代わりに値段も上がります。根気強く説明をしていただき、ひとつひとつ内容が決まっていきます。
文章や数字を何度もチェックし、入稿、色校正をして、ようやく
平成22年7月に「吉田茂と59人の歴代首相」本ができあがりました。
売り込み開始
展示会があればそこで販売することはできますが、それだけでは展示会にきてくれた人の目にしか留まりません。どこかに販路をみつけなければなりません。
近所の本屋さんに持ち込みをしてみたものの、そんなに簡単においてもらえるものではありません。そして私は営業活動がとても苦手でした。それでも必死になると大胆にもなります。当時アドバイスをくださっていたマーケティングの先生から自民党本部とか国会の売店に声をかけてみてもバチは当たらないと言われてその気になりました。
自民党本部へ突撃訪問
怖いもの知らずとはよく言ったものです。
誰からの紹介状ももたず、出来上がった本と自分の名刺をもって永田町の駅から自民党本部まで乗り込んでいきました。当時は民主党政権でしたし、テレビで自民党本部の食堂のカレーを特集していたので簡単に入れるものだと思っていました。しかし、入口では厳しいボディチェックがあり、とりあえずたどりつけたのは1階の売店。お話は聞いてもらえたものの、議員さんの紹介がなければ取り扱えないと断られました。せっかく来たのだからと、歴代総裁揮毫の古いカレンダーをいただきのがいい思い出です。
国会土産の店 新美堂さん
その当時、国会見学にきた人のために、国会議事堂せんべいや国会ボールペンなどの記念品を扱っているお店が2件ありました。
ここでも恐ろしいことに飛び込みで訪れ、本を置かせていただく契約をとりつけたのです。
国会見学の団体バスの駐車場にある売店は「新美堂」さんでした。
とにかく緊張していた私は汗だくになりながら本の特徴を説明し猛烈にアピールしました。
国会土産の仲間入り
社長さんのご厚意により「吉田茂と59人の歴代首相」(当時は59人の首相)本は国会土産のお店に堂々と置いていただくことになりました。
他の美味しそうなお菓子が1000円もしない中、1500円の本はあまりにも高いです。お店の方からは、きっと1冊も売れないだろうと予想されていたのですが、国会の見学に来られた方が、見本を見てポツポツと購入してくださいました。
本の納入の際に購入した進ちゃんの幸せショコラ
平成が終わり、そしてお別れ
それから8年がたちました。
昭和29年に衆議院内にて国会土産販売をはじめられた新美堂さんですが、平成30年4月末にて閉店されることになりました。
最後のご挨拶に伺ったときにはとても寂しかったです。お店の方から「いつもはお客さんに売るばかりだったけれども、この見本は記念にもらってもいいかしら。ゆっくり読みたいわ」と言われました。私はその時に持っていっていた本を全部差し上げました。
感謝してもしきれません。この本が国会土産のお店にあったことがどんなに誇りだったことか。
令和とともに
「吉田茂と61人の歴代首相」本の在庫はもうそれほど多くはありません。次の首相が誕生しても今のところ発行の予定もありません。
このような面白い似顔絵本があったことを誰かに伝えたくてこのサイトを作りました。
「見る人がクスッと笑ったり、にやっと共感してくれたら嬉しい」
どうぞお茶でも飲みながら、のんびりとお楽しみください。
これは吉田茂と61人の歴代首相本の「はじめに」のページに書いた言葉です。今でもこの気持ちは変わりません。どうかこの本が誰かの目にとまりますように。
そして「吉田茂と61人の歴代首相」展示会が各都道府県で開催できるのを夢みております。